カシスさん⑤ワガママでごめんなさい
遠距離恋愛には嫌な思い出しかない。だから…
そう電話口で話す彼女を、何とか引き留めようと言葉をかける私。
「もう少しだけ、私を見て頂く時間を作ってもらえませんか」
そんな台詞も、残念ながらカシスさんにはあまり響かなかったようだ。
「ごめんなさい」
「少し考えさせて頂いてもいいですか」
そんな返答が返ってくる。
ふー。まあしょうがないよなぁ。
実に分かりやすいお断りの返事を頂いてしまうと、もうこれ以上かける言葉は見つからなかった。
なんせまだ、一度お会いしただけの女性なのだ。
これ以上食い下がるのは、彼女に負担を強いるだけ。それだけはさすがに避けたい。
「分かりました♪」
「あっ、お返事は、前向きな気持ちになれた時だけで大丈夫ですからね」
「またお話できて、ホント楽しかったです」
最後にそう伝えて、彼女との通話が終了した。
電話を切ると、なんだかどっと疲れが出てくる。
まだ一度お会いしただけなのにな。
改めて「本当に彼女に惹かれていたんだなあ」と実感させられる私であった。
これにてカシスさんとの出会いは終了。
この時は、さすがにそう思っていた。
そして事実、それから数日が経過しても、彼女から何か連絡がくることは無かったのである。
多少引きずりながらも、日々新たな出会いを求めて婚活に勤しんでいると。
電話で話をした日から、二週間ほど経った頃だろうか。
カシスさんからLINEの着信が入る。
「全然連絡もせずに本当にゴメンなさい」
「タカシさんさえ良かったら、もう少しお話してみたいなと思いました」
「もうすでに素敵なお相手が出来ていたりしたら、見なかったことにしてくださいね」
「ワガママな女で、本当にごめんなさい」
うそっ、マジで!?
深夜の残業中にもかかわらず、素直に小躍りしてしまう私。
いやいや、落ち着け。
別に付き合ってくれるなんて言っているわけじゃないぞ。
あくまでも、ちょびっとだけチャンスが出てきた。ただ、それだけの話だ。
そう冷静になろうとするも、この時は本当に嬉しくて仕方なかった。簡単にお礼のLINEをし、少し話したいというカシスさんのリクエストで電話も。
「今週末にまたご飯でも行きましょう」となって、スムーズに2回目の約束も取り付けたのだが。
遠距離婚活の難しさ。
それを早速、実感させられることになるのだった…