カシスさん⑪寂しいエンディング
婚活で出会った一人の女性に、ただ振られただけなのに。
素敵なレストランを、まるで別れ話のような重たい雰囲気が包み込む…
実に寂しそうな微笑みを浮かべながら語る。そんな彼女に、私はなんて声をかけたら良かったのだろうか。
「とりあえず出ましょうか」
そう促して一旦お店を後にする私達。
夜道を歩きながら、カシスさんに聞いてみる。
「まだ好きなんだね」
しばらく無言で歩く彼女は、ようやく口を開く。
「もう、よく分かんないんです」
それが彼女の偽らざる本心なのだろう。
いけない恋と知りながら5年近くも付き合ってきたのだ。そんな簡単に割り切れるものではない。
「そっか」
それ以上、私も言葉は続かなかった。
最寄り駅まで辿り着くと「それじゃあここで」そう手を振り解散となる。
そういえば、この後で行くつもりだったバーを予約してたっけな。
キャンセルの電話を事務的に済ませると、一気に疲れが押し寄せてくる私だった。
すっかり彼女に惹かれていたはずの私。
結婚を意識してお付き合いしたい。そう考えていたはずなのに。
まだチャンスはある。ガンガン攻めて口説き落としてやればいいんだ。そんな積極的な気持ちには、何故か全くなれない…
(私って、少しおかしいんじゃないかな)
カシスさんへの気持ちが冷めていく自分自身に、戸惑いばかりが大きくなっていく。
もう考えるのもめんどくさい。そんな悪癖が顔を出し、ホテルのベットで横になると。
以降、彼女から連絡が来ることはなく。
そして、私からも。
カシスさんとの出会いは、それで全て終わったのであった。