「もうちょっとだけ、時間とれない？」
リンゴさんからそんな連絡がきたのは、新大阪に到着する少し手前の頃だった。
ついさっきまで仲良く食事をしてきたばかり。
おいおい、一体どうした？
とりあえず電車から降りた私は、彼女にかけ直してみると。

「ホントごめんね」
「次いつ会えるか分からないし、もう少しだけお話できないかな」

そんな風に言われて、ちょっとドキドキしてしまう私だった。
いくら鈍感な私でも、なんとなく察するものがあったからだろう。

「まあ構わないけど…」
「もう新大阪まで来ちゃったしな」

そう歯切れ悪く返すと「そっちまで行くよ」とリンゴさん。
いやいや、お子さんを連れて大変でしょと断るが。子供はお母さんが見てくれてるから大丈夫と。
（うーん、まだ17時前だし少しくらいならいいか）
こうして遅めのランチの後に、今度は早めのお酒タイムに突入することになったのである。

「引き留めちゃってホントごめんね」

そう謝りながら再び現れた彼女を眺めつつ、私は改めて思っていたのだった。
この娘、やっぱ可愛いよなぁと。
しかし。そうは言ってもシングルマザーのリンゴさん。
婚活を続ける私にとって、付き合う女性の基準は当然「結婚を意識できるかどうか」だ。
いきなり父親になる覚悟など、果たして私に持てるのだろうか…

そんな私の心配を知ってか知らずか、その後も彼女との会話はライトなものに終始する。
お酒が入ったことで、カフェの時よりさらに盛り上がった。
特に私の婚活話は、リンゴさんにとってとても新鮮に映るらしい。
あっという間に時間だけが過ぎていく。
気付いたら20時で、新幹線の最終まであと1時間ちょっとしかない。

「そろそろ行かなきゃ」

私の方からそう切り出すと。
彼女の雰囲気が、少しだけ変わったような気がした。