カシスさん⑧空気の読めない私
女性とデート中に手を繋ぐ。
中学生じゃあるまいし、これ自体はそれほどハードルの高いものではないだろう。
裏を返せば、意中の女性と手を繋げたくらいで「いけるかも」とはさすがに思わない。
それでも。
「腕を組んで歩く」となったら話は別だ。
手を繋ぐくらいならば、半ば無理やりにでも出来なくはないが。
満面の笑みを浮かべながら、女性の意思で腕を絡ませてくれる。こうなると、好意の度合いが異なるとしか思えないよね。
(これ、もうカシスさんと付き合えるんじゃないの)
なんて舞い上がってしまった私。
彼女と会うのも次が6回目か。うん、告白するタイミングとしては悪くないな。
よし!そう思った私は、出来るだけ雰囲気の良さそうなお店を予約すると。彼女への初めてのプレゼントも用意して、来るべき日に備えたのであった。
前日。
「婚活は順調?」
久しぶりにリンゴさんからLINEが届く。
「お陰様で。とうとう出会えたかもよ」
テンションの上がっていた私は楽観的にそう返すと、これまた久しぶりに電話も鳴った。
カシスさんとの馴れ初めをのろけつつ、楽しく会話を続ける私達だったが。
「そっか、タカシさんに彼女が出来たら、もう気軽に連絡できなくなるね」
「ちょっと寂しいな」
不意にそうつぶやく彼女。
「らしくないこと言うねー」
その時は、軽く一笑に付した私だったが。
しかし改めて振り返ってみると、そういえばそんな雰囲気もあったのかもな。私、全然空気読めてないよね。
そんな反省をするのは…まぁ、もう少し先の話である…
そうして告白の当日を迎え、意気揚々と博多へ飛び立つことに。
すっかり打ち解けた(と思っている)カシスさん。
天神で彼女の買い物に付き合い、お洒落なレストランで食事を済ませると。
いよいよ告白の時である。
用意しておいたプレゼントを渡し、
「結婚を意識して、私と付き合ってください」
そう告げた瞬間だった。
それまで笑顔で向き合ってくれていた彼女の表情が、一瞬にしてこわばることになる。
えっ!?
これ、完全にダメな顔じゃん…