リンゴさん③シングルマザーの31歳
「うそ!?、リンゴさん子供いるの!」
そう驚くのは、彼女目当てでこのお店に通っていた男性陣。
桜井幸子さん似の可愛らしい彼女でも、子持ちの女性と聞けば腰が引けるものらしい。
以降はターゲットが露骨に変わっていくのだから実に滑稽な話だ。
へー、面白いこと言う娘だな。
一方の私は、素直にそう思ったものである。
彼女に好意を寄せるお客を一刀両断するような言い方。ホステスとしては如何なものか。
そんな風に水を向けると「ウチはそういうお店じゃないから」だって。
はは、たいしたもんだ。
飲み屋の女性は極端に苦手な私であるが、彼女のことは単純に気に入った。
面倒な色恋営業とは無縁な人だと思えば、ずいぶん気も楽になるものである。
そういえばLINEの返信もせずに申し訳なかったねと伝えると。
「変に口説いてこられるよりも良かったですよ」
そう笑顔で返すリンゴさん。
もう少し下かと思ったが、歳は31歳。
いわゆる未婚の母だとか。お子さんはそろそろ2歳になるらしい。
それからしばらく、彼女と何気ない会話を続けたのであった。
そうしてもちろん何もなく、お店を後にする私。
そんな彼女とどうにかなるなんて、この時はまだ一切考えてもいなかったのだが。
それからしばらくして。
リンゴさんのお店で3回目の宴席が行われた日のことだった。
相変わらず下品な飲み方をするメンバーに辟易しつつ、「私はこれで」そう言い残して先に店を出ると。
「タカシさーん」
何故かリンゴさんが追いかけてくる。
「今日は体調不良だって言って、もう上がっちゃった」
そう言うリンゴさんと途中まで一緒に帰ることに。
他愛の無い会話をしつつ、私の宿泊しているホテルまで辿り着くと。彼女からこう聞かれたのである。
「明日、少し時間ないですか」
「東京に戻る前に、良かったら少しお茶でもしません?」