バナナさん⑨金銭感覚の深い溝
宿泊先の旅館に到着した私達。
広々として風情のある客室に、テンションの上がる私だったが。
肝心のバナナさんは…
「こんなの良い部屋過ぎるよ」
「絶対高いでしょ?」
そう言い放って、何故かご機嫌ナナメである。
「まあ初旅行だし」
「それに、そんなに高いわけじゃないよ」
困惑する私に対し「幾らなの?」としつこく聞いてくる彼女。
「8万円とか9万円くらいだよ」
付き合い始めてすぐの初旅行。
料金の話なんて、今は別にしなくていいんじゃ…
そう戸惑いながらも答えると。
「なにそれ、高すぎるよ!」
「もったいないなぁ」
いや、言うほど高くはないよね…
まあ温泉旅行なんて一人2、3万円くらいが妥当なところなんだろうけど。別に20万円とか30万円とかするわけじゃないんだし。
そんな話をしてみると、彼女の機嫌はそこから一気に悪くなっていく…
「なにそれ、タカシさんは金銭感覚おかしいよ」
「お金はもっと大切にしないと絶対ダメ!」
まさかのお説教タイム。
いや、たしかに私の金銭感覚は少しおかしいのかもしれない。
結婚を意識しているのだから、バナナさんの言うことも分からないではない。
でも。
別に無理しているわけではなく、多少余裕があるからこうしているだけで。お金がないのに散財したりは絶対しないよ。
もちろん全て私が出すし。
それじゃダメかね。
やんわりとそんな話をしてみるのだが、ヒートアップしたバナナさんはどうにも納得がいかないようだ。
「そもそも熱海に行くのに新幹線とか使わないよ」
あらら…
「なにそれ」はこっちの台詞だなぁ。
彼女との初旅行でウキウキ気分。そんな雰囲気は微塵もなくなっていく。
ホントどうしたらいいんだろうか。
窓から見える綺麗な景色を眺めながら、文字通り途方にくれる私であった。