彼女との初旅行当日。
現地集合では味気ないと、東京駅で待ち合わせをした私達。
新幹線で熱海まで向かうつもりで、先に切符も用意しておくと。

「なんで買っちゃったの」
「そんな気を遣わなくていいのに」

なぜか不満そうなバナナさんである…

女性と男性とでは、出掛ける際にかかる労力が違い過ぎるものだ。
だから、彼女とデートするのに基本財布は出させない。
それが私にとっての当たり前だったのだが。

彼女の気持ちに負担を強いてまで、全て出すのは良くないのかもしれないな。
そんな風に反省する私だった…

「ゴメンね」
「これからは事前に相談するようにするね」

そう謝りつつ、新幹線に乗り込む二人。
車内から早速盛り上がって、楽しい時間を過ごすことに。
先ほどのやりとりなど既に忘れていた私だったが。
どうやら彼女は違ったらしい…
宿泊する旅館にたどり着くと、何やら不穏な空気へと変わっていく。

仲居さんに案内されて向かった先は、広々として風情のある素敵な客室。
もちろんテラスには大きな露天風呂も備え付けられている。
いや、本当に素晴らしい部屋だ。

「良い部屋だねー」

テンションの上がる私とは対照的に、何だか浮かない表情のバナナさん。

「あれ…気に入らなかった？」

そう恐る恐る聞いてみると。
彼女からは意外な返答が返ってきたのだった。

「ううん、その逆」
「こんなの良い部屋過ぎるよ」
「絶対高いでしょ？」

そうつぶやくように答える彼女は、明らかに怒っているように見えたのだった…