「何時でもいいから、手が空いたら電話くれないかな」
リンゴさんからそんなＬＩＮＥが届いたのは平日昼間のことである。夜のお仕事を続けていた彼女だから、そうおかしな話ではないものの。
珍しいな。普段の彼女からは違和感を覚えるメッセージだ。
「どうした？」
何だか気になってしまい、仕事の合間に電話してみると。

「お仕事中にごめんなさい」

電話に出たリンゴさんは、これまで聞いたことのなかった元気の無い声である…
別に構わないよ。今日は暇な日だしね。
そう促すと、彼女はポツリポツリと話しだす。
どうやら母親とケンカしたらしい。それで、今の家を出て行こうと思っていると。
おいおい、穏やかじゃないな。
だいたい子供のこともあるだろうに。「一体どうしたの？」改めて聞いてみる。

彼女はもともと母子家庭。
そして母親の再婚を機に一人暮らしを始めるも、リンゴさんに子供が出来たことをきっかけに家に戻ったという。
（そういえばまだ、未婚の母となった経緯など特に聞いてもいなかったよね）

「母親とはあまり良い関係じゃなくて、再婚相手とも何だかギクシャクしたままなんだ」
「正直ずっと出ていきたかったけど、それもなかなか難しくて…」
「でもね…昨夜色々あって。もう出て行くことに決めたの」

そんな風に家庭の事情を話す彼女の言葉を、黙って聞いていたが。
そうは言っても簡単な話じゃないだろ。結論は急がない方がいいよ。そんなありきたりな言葉しか出て来ない私であった。

「ううん、もうだいぶ前から考えていたことだから」
「でもやっぱり、ちょっとドタバタしそうだし。約束の件は延期した方がいいかなって」

面倒な女でゴメンね。関わりたくないと思ったら、それで全然構わないからね。お仕事頑張って♪
彼女は寂しそうにそう付け加えると、私の返事を待つことなく通話を終わらせたのである…